2016年7月5日火曜日

2015RAWその9: 忍び寄る脱水

  歓声の中、2015年RAWがスタート。

写真を撮ろうとして皆に「運転運転」と突っ込まれる立川さん

GPSビーコンでのライブトラッキング画面

  ローアングルから構えるカメラマンの真横を通過し、海岸線を500m走って右折。振り返ってサポートカーを確認後、大きく手を振って左折する。スタートから1kmにも満たないこの地点からサポートカーとは別ルート、13kmまでは川沿いのサイクリングロードを走り、その後一般道に出て38km地点で再びサポートカーと合流する。

  川沿いサイクリングロードは道幅も広く無く、一般人もいるためパレード区間で前走者の追い抜き禁止となっている。ハンドルに付けたアクションカメラに状況を解説すべくブツブツと呟きながら走った。
  パワーメーターを見る、予定より少しオーバー気味か。それでも無酸素運動域に入るほどは出していないし、神経が昂っており苦しさは全く感じない。気分よく走るうちに1分前にスタートした女性、カレン・アームストロングに追いついてしまった。

  このRAWとRAAM、1分間隔の時差スタートでの個人TTとなっておりドラフティングは禁止だ。パレード区間で追い抜きも出来ず、10mほど離れた位置をキープする。こんな序盤の速度は大勢に影響無いだろうがもう少し気持ちいい速度で走りたい。
  我慢の走りを続けていると左から黒い塊が走り去っていく。1分後スタートのブラジル人だ。抜かれた以上こちらも黙ってタラタラ走るわけにはいかず、慌てて追いかけ尋ねた。「ここってパレードじゃないの?」
  「何言ってるんだい。これはレースなんだぜ」陽気なブラジル人。彼の名はファビオ。この先TS1まで抜きつ抜かれつの争いをすることになる。

  サイクリングロード出口ではスタッフが待機しておりゼッケンを確認。ここからは一般道。
※結局ファビオが間違っていてここは追い抜き禁止区間だったわけだが…ペナルティー食らわなくてよかった。

  信号は少ないがゼロではない。優先道路への流入交差点では一時停止義務がある。そういった箇所にはたいていスタッフが待機しているし、スタッフカーの巡回も多い。「交通ルールを守りましょう」なんて性善説じゃない。他チームにも常に監視されており違反すれば失格なのだ。だからこそ守ることに公平感が出る。
  私のやりたかったことはこれだよな、と思う。いくら交通ルールを守ろうとも、ブルベでタイムや順位を意識して走るのはグレーな気がして嫌だった。これはレースだ。やりたかった超ロングのレースを今まさに走っている。

  高揚感は止まらない、幸せで飛んでいきそうだ。ファビオとそれからもう一人速そうなのはアンドリュー、前後しながら先にスタートした参加者をどんどん追い抜いていく。体重は私が最も軽いか、斜度がキツイ登りになるとファビオを捉え、平地でまた抜かれる。ドラフティング禁止で後ろにはつけず抜くときは一気加速して。
  200kmのブルベより出力は抑えられているとはいえ、1400km持つか、と聞かれたら多分ノーだ。まだほんの序盤、もっと抑えて走った方がいいのだろう。まあきっと、ここでこの争いに加わらずクレバーに走れる性格ならこのレースに出ていない。

サポートカーが合流を待つ駐車場

  合流の38km地点まではあっという間だった。
  スペアタイヤ、それからパンク修理セットの入ったツール缶を投げ捨てボトルを受け取る。曇り空で肌寒かったスタート地点からそんなに離れていないのに青空が広がり気温が上昇してきた。

リープフロッグ(カエル飛び)サポート開始

  最初のタイムステーション(ブルベにおけるPC)、TS01:Lake Henshawまでは91.5km、獲得標高は1967mというアップダウンの多いパートだ。このレースで優勝出来る可能性は極めて低いとわかってはいるが、それでも参加するからには夢は見たい。TS1くらいはトップ通過目指してもいいじゃないか。

  路面はそんなには悪くない。しかし所々荒れている箇所もあり、下りの振動でハンドルにつけていたアクションカメラをふっ飛ばしてしまう。慌てて停止しカメラ本体は見つかるが、落下の衝撃で蓋が開き中のメモリカードを紛失。レース前の宴会、それからスタートからここまで撮ってきた動画が全て無に…

陽気なブラジル人ファビオ

  何故かファビオのクルーは美女で構成されている。私にも「Fantastic Job!」と応援してくれて嬉しい。

ファビオから少し離れて私。ちょうど他の選手をパスした所

  止まっているクルーからの補給物資受け取り。一度くらい練習したほうがいいかもねなんていいつつも機会が無くぶっつけ本番。
  レーサーとしてはヒルクラ給水所での補給のような感じでいた。速度を減速し、ボトルやサコッシュに入れた食料を受けとる。リープフロッグでの停車位置は速度の乗る下りは避けるように伝えていたし、練習無しでも問題になるとは思わなかった。

ボトルの受け取りに失敗

  最初は受け取った時の衝撃でボトルの蓋が外れてしまう。減速無しで突っ込んでいるつもりは無い。ヒルクラやツールドおきなわで失敗したことなんて無いのだけれど、渡す側も初めての経験で、どうにも上手くいかない。
  止まって受け取ればいいもののこっちはファビオと争っている最中。ちょっとイラっとして「走って!」と伝えてしまった。別に走る必要なんてなくこっちの手に合わせて少し動かして貰いたかっただけなのだが、この後律儀にクルーは走ることになってしまい申し訳なかったなと反省。

  更に問題だったのは出国直前に買ったエアロボトル。なにかもう(機材力だけで)出来ることは無いかとエアロボトルに目をつけダウンチューブのケージのみこれに交換。これにより通常の円柱ボトルとエアロボトルの2種類が存在することになる。
  替えボトルは両方3つずつある。私は補給といえば両方のボトルが用意してあるものだと当然思っている。補給手前でエアロボトルを手にし大声で叫んで要求するが、用意されているのは通常ボトルのみ。こんなことが何回か続いた。妻はサポート経験なんて無いし、事前に伝えておかなくてはいけないことだったのに両方用意されるものだとばかり思い込んでいた。いくら夫婦であっても言わなければ何も伝わらない。
  妻は「エアロボトルが敗因だった」と言っているが、水とスポーツドリンクを両方用意出来てない時点でボトル形状が同じでも結果は似たようなものだっただろう。トランシーバーが無かったのも受け取り失敗に拍車をかけた。

  失敗したら止まればいい、1回の停車が30秒でも10回繰り返したら5分になる。そのたった5分が惜しかった。それにまたすぐにリープフロッグで補給できる、ちょっと先で再度チャレンジすればいい。


  誤算は他にもある。チーフクルーミーティングでは「お互いが見える距離で止まるのがBESTだ」と説明されていたリープフロッグ時の停車間隔。しかし実際は「白線まで1.5m間隔をあけた外側に停車」のルールに適したスペースがなかなか無く、あってもファビオカーに取られている。結果リープフロッグの間隔は私が想像していたのよりずっと長かった。特に長く続く登りでは路肩が狭いことが多く、ピークまで補給を受け取ることが出来なかった。
  1回のボトル受け取りミスで次の補給までにドリンクが尽きてしまう。気温は39℃、日本では経験したことのない領域に突入していた。

TS01:ヘンショー湖。既に暑い

  暑さから頭にかける用途でも水は大量に使う。何度か続いた水切れで脱水症状はジワジワと体を蝕み始める。
※本当はナトリウム不足が問題だったのだが、それは次回日記で。

  RAWのチェックポイントのTSではレーサーは止まらず走り続けてよく、クルーが本部に通過時間を電話連絡する。ここTS1でクルーの電話は本部となかなか繋がらず、TSからの出発が遅れてしまった。
  ボトルの水は完全に尽きた。止まってサポートカーを待つことも考えるが、どうせ日陰は無い。走り続けても大して変わらないだろう。それにしてもサポートカーは遅い、一体何をしているのだと電話とかけるが電話に出ない。(こちらからの着信に気が付かないというミス)

  暫く走り続けたがもう限界だ、日差しは強く喉は痛い。気分が悪くなり何度か吐いた。

徐々に高い木が無くなり、砂漠の近づきを感じさせる

  「クルーはこうしてくれるだろう」「すぐ先でサポートカーは止まってくれるだろう」練習も準備もせず、そんな都合のいい思いが体力を奪っていく。準備不足ならもっと行動を安全に振ればいい、なぜそれが出来なかったのか、やはりレースの雰囲気で舞い上がって、それから焦っていたのか。

  砂漠に入る前、この時点で消耗度合は予想を遥かに上回った。それでもまだ楽しい、過酷さは覚悟してきたから。

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